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2010年10月

2010年10月28日 (木)

bjリーグの貴重な挑戦

日本体育協会の公認スポーツ指導者10万人に配布される「指導者のためのスポーツジャーナル」2010年秋号に掲載されたコラムです。体協の許可を得て転載。

bj
リーグの貴重な挑戦

江戸川大学社会学部経営社会学科 准教授、本誌編集委員 澤井 和彦

わが国で初めてのプロバスケットボールリーグとして2005年に6クラブで開幕したbjリーグは、2010-2011シーズンには16クラブに拡大する。しかし、昨シーズンオフに高松ファイブアローズの運営会社が倒産するなど、その経営は必ずしも順調とはいえないようだ。一方、もう一つのトップリーグであるJBL(日本バスケットボールリーグ)は、現在でも8クラブ中6クラブが企業スポーツクラブ(企業クラブ)である。企業スポーツとは、企業が福利厚生を目的に社員のスポーツ活動を支援する制度であり、企業スポーツ選手は企業の正規社員、企業クラブは企業のコストセンターである。bjリーグが設立される直前のJBLには、トヨタや東芝など7つの企業クラブに対し、親会社が撤退して企業クラブからプロクラブへ移行した新潟アルビレックス(現・新潟アルビレックスBB)が参加していた。

 待遇面でJBLと格差

 営利企業である新潟アルビレックスは興行を行って収益を挙げなければならないが、企業のコストセンターである企業クラブは興行を行う必要がない、というより「できない」。当時、JBLは主に各地区協会が主催する全国巡業でリーグ戦を行っており、新潟は十分なホームゲームを確保できなかった。JBL自体は1990年代中ごろから常にプロ化を志向していたが、企業クラブの反対で実現に至らず、業を煮やした新潟と、やはり2部に所属していたプロクラブのさいたまブロンコス(現・埼玉ブロンコス)はJBLを脱退してbjリーグを設立した。参加クラブの減少とライバルの出現に直面したJBLも、その後新しくプロクラブを加えてようやくホーム&アウェイ方式でのリーグ戦をスタートさせた。ただし、相変わらすほとんどの企業クラブはJBL内部の興行運営セクション(JBO)等に興行を委託している(図)。今年に入ってFIBA(国際バスケットボール連盟)の要望もあり、両リーグは将来的な統合を目指すことで合意したと伝えられるが、企業スポーツとプロスポーツの制度的な溝は深い(図)。

 

JBLの企業クラブとbjリーグのプロクラブの収益構造

 Bjjbl

 

例えば、報道等によるとbjリーグとJBLの両リーグの1クラブあたりの運営費はともに24億円と言われるが、興行を行わない企業クラブは専属のスタッフを持たない場合も多く、運営費のほとんどが選手やコーチの人件費である。一方、営利企業であるbjリーグのプロクラブは、一般管理費などに加えて宣伝費や運営費などの割合が高く、サラリーキャップで選手の人件費総額を7,300万円(2009年)に制限している。つまり、JBLの企業クラブとbjリーグのプロクラブとの間には、選手の待遇にかなりの格差が生じている。報道や筆者の独自調査によれば、企業クラブの選手の報酬は嘱託契約選手で4501,500万円、プロ契約選手で1,000万円から日本代表クラスで2,000万円にもなる。正規社員の選手は同年代の一般社員と同様の300700万円だが、これに福利厚生と引退後のキャリア保証がつく。一方、bjリーグの日本人選手は400500万円、練習生契約で200万円程度という例も聞く。もちろん、引退後のキャリアの保障はない。

 両リーグ統一の難しさ

 こうした選手の待遇格差は競技力の格差につながる。昨年、プロクラブであるリンク栃木がJBLで優勝したことは称賛に値するが、その要因としてリンクアンドモチベーションという親会社の存在は無視できない。同じプロクラブでも、大口スポンサーを持たないレラカムイ北海道は下位に低迷したままである。

JBLの企業選手の給与は親企業の賃金体系によるものであり、興行の成否とは無関係である。一方、bjリーグの選手の給与は興行の成否とクラブの収益に直結している。多くのスポーツ関係者が誤解しているが、プロスポーツ選手の給与は競技成績ではなく、お客さんの数に比例する1試合あたりの観客動員数ではbjリーグがJBLを凌いでいるし、レラカムイ北海道はJBLでトップクラスの動員力を誇るが、プロクラブが企業クラブに匹敵する給与を選手に支払うためには、現在の倍以上の売り上げが必要だ。このまま統合しても、中長期的にはリーグの上位を企業クラブが占め、bjリーグのプロクラブのほとんどは下位に甘んじることになるだろう。逆に企業クラブをすべてプロクラブ化すれば、ほとんどの選手の給与は大幅に減少するし、選手の引退後のセカンドキャリアが大きな問題になる。両者の統合には制度的・経営的に高度なテクニックが必要になると思う。

 避けられない「プロ化」

 バスケットボールに限らず、現在でも企業スポーツに未練を持つスポーツ関係者は少なくない。確かに、既存の企業クラブはできるだけ維持するのがよいと筆者も考える。しかし、企業スポーツは近代化の過渡期で高度経済成長期だったわが国の、きわめて特殊な状況で発展した過去のシステムである。その条件のほとんどが失われた現在、競技の発展を志すのであれば、クラブやリーグの「プロ化」は避けて通れない。この点で、bjリーグの挑戦はバスケットボール界にとってきわめて重要な意味がある。述べたように、自ら興行を行わない企業クラブには独立したクラブ経営やスポーツビジネスの人材やノウハウが蓄積されていないbjリーグが四苦八苦して蓄積している人材やノウハウは、今後の業界の発展にとって貴重な資源になるはずだし、そうしなければならないだろう。

澤井和彦「bjリーグの貴重な挑戦」指導者のためのスポーツジャーナル、日本体育協会、2010、pp46-47

大都市におけるスポーツ施設の施策について

以下は今年の5月にある自治体の委員会の報告書のために書いた文章です。自治体の名前を出さないという条件で許可を得て転載します。
#タイトル含め適宜修正しています

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「大都市におけるスポーツ施設の施策について」
江戸川大学社会学部 澤井和彦

1.公共空間を利用する

笹川スポーツ財団のスポーツライフ調査(2008年)によれば、運動・スポーツ実施率上位の種目は、1位散歩、2位ウォーキング、3位軽体操をはじめ、9位キャッチボール、10位サイクリングといわゆるスポーツ施設を使わない種目が上位を占める。また、かつて筆者がスポーツライフ調査(2004年)分析したところ、過去1年間に「公共スポーツ施設」を利用したことがあると答えた人が27.5%、「民間スポーツ施設」が27.9%であるのに対し、「道路・公園・河川敷などの公共空間」を利用したという回答が47.4%だった。こうしたデータをみると、「だからもっとスポーツ施設を整備しなければ」などと思われるかもしれない。

しかし、人口密度の高い大都市では、いくらスポーツ施設を建設しても砂漠に水を撒くようなものだ。地価を考えると「費用対効果」なんて単語は口が裂けても言えない。都心の一等地に「利用料1回600円で市民の1%も利用しない公共スポーツ施設」なんて、気の遠くなるような「機会費用の損失」と「資源の不平等分配」だ、と経済学者なら言うだろう。

しかしそれ以上に、最近のマラソンブーム、自転車ブームを見ても、公共空間を利用したスポーツの隆盛は「施設がないからしかたなく」という理由では説明がつかない。

こうしてみると、私たちは「スポーツをする人」を増やすためにスポーツ施設にこだわる必要はない。手頃な公園や広場が十分に整備されていればいいし、「思わず歩きたくなる遊歩道」でも「サイクリングしたくなる海岸線」でもいい。「スポーツできる公共空間」はスポーツ施設よりも低コストで整備・管理できるだろうし、都市計画の一部として適切にデザインされれば、その便益にあずかる人の数はスポーツ施設の比ではないだろう。

2.交流の場としてのスポーツ空間

スポーツを行う場所がスポーツ施設である必要がないように、スポーツ施設がスポーツをする人のためだけのものと考える必要もない。

かつて筆者が横須賀基地で米軍のクラブチームとアメリカンフットボールの試合をしたとき、基地内の施設を見ると野球場やバスケットボールコートなど、ほとんどのスポーツ施設に観客席が設置されていた。また、ただの“草試合”であるにもかかわらず、スタンド横の屋台では黒人のおばちゃんがハンバーガーを焼いて“観客”(選手の家族や友人)に売っていた。こうした欧米のスポーツ施設やスポーツの光景をみると、彼らにとってスポーツとは、いかなるレベルであっても「する人」だけでなく「観る人」のためのものでもあると感じる。

社会学者の吉見俊哉によると、わが国でも戦前まで学校の運動会は「村の祭り」だったし、当時は政府が運動会を村の祭りから切り離そうとやっきになっていたという。

運動会と日本近代 (青弓社ライブラリー)
吉見 俊哉 平田 宗史 入江 克己 白幡 洋三郎 木村 吉次 紙透 雅子
4787231677

しかし、現在のわが国はほとんどのスポーツから「観る文化」を排除してしまっている。スポーツ施設には公共施設にも学校施設にもたいてい観客席はついていないし、アメニティや飲食スペースなども極めて貧弱だ。筆者が家族で都心の公共体育館に友人の試合の応援に行った時、授乳室も、トイレにおむつ替え台もなく、妻はやむなく更衣室を借りて4か月の娘に授乳していた。

ちなみにこの施設は最近リフォームされたばかり。体育館の横にはフィットネスクラブのようなトレーニング室もできている。しかし、子ども連れで試合を応援に来る人のことはいっさい考えていない。

そういう意味では、いまどき民間の商業施設の方がより多くの人々に開かれているという意味でよほど公共性がある。乳幼児を抱えるわが家が家族で出かけるのは、スポーツ施設ではなくこうした商業施設だ。

いまさら施設の改修は難しいかもしれないが、敷地内に簡易なホスピタリティ施設を設置するなど、「観る人」にも居心地のいい、人々が交流する空間として整備することは考えられるかもしれない。様々なイベントと共催して相乗効果で「祭りとしてのスポーツ」を演出することも考えられるだろう。「お祭り」ならスポーツを観はじめたばかりの子どもや彼女も連れていきやすい。また、スポーツ目的でない、いろいろな人が集まることで、施設にとっても競技団体にとってもよいプロモーションの機会になるかもしれない。また、イベント1回当たりの規模はたいしたことはないかもしれないが、年間を通じて毎週のように各地で定期開催すれば、トータルで一定の経済効果が期待できるかもしれない。

こうして「日常的な祭り」として多様な人々に開かれ、その交流の場となることで、ようやく公共スポーツ施設がその機能を発揮したといえるのではないだろうか。

3.都市づくりの中心としてのスタジアム

最後に、大規模なスタジアムやアリーナの場合を考えてみよう。ここでもやはりテーマはスポーツをする人のためだけでないスポーツ施設である。

筆者がJリーグの調査で訪れたイングランドサッカー2部リーグのコヴェントリー・シティFCのフランチャイズである「リコー・アリーナ」は、都市郊外の再開発計画の中心として建設されたもので、サッカークラブの知名度と露出を利用して開発地域の付加価値を高めようと計画された。公共施設だが民間の経営手法を大胆に取り入れて設計・経営されており、ラグジュアリー・ボックスやビジネスラウンジといったホスピタリティ(接待)用の施設を設置して興行における収益の向上を図るとともに、スタジアムの付帯施設としてホテルやレストラン、コンベンションセンター、フィットネスクラブやカジノを備え、サッカー興行の有無に関係なく収益を挙げることができるようになっている。

これにはスタジアムの維持管理や運営、改修などに公的資金の追加支出が発生しないようにするというだけでなく、雇用を創出して地域経済を活性化するという目的がある。コヴェントリー市によれば、2006年にはアリーナだけで2,700人の雇用を生み出し、開発全体で貧困層の多い地域住民の平均所得を5%上昇させたという。また、アリーナには社会教育施設や公共ホールも設置され、住民に開放されるとともに、子どもの課外教育や若者の職業訓練などが行われている。

このように、リコー・アリーナはフランチャイズであるプロスポーツのメディアバリューを利用して多様な人々に便益を提供することを考えて設計・経営されている。こうしたアプローチは、わが国のスポーツ施設政策にも参考になるかもしれない。特に、多くの大都市にはプロ野球やJリーグなどトップ・スポーツの資産が豊富である。プロ野球球団以外はやや力不足だが、札幌ドームのように複数のクラブによるマルチフランチャイズにすることも考えられるだろう。

以上のように、特に大都市部では、スポーツ施設の整備や経営にこれまでとはかなり異なるアプローチの施策が求められると考える。一方で、それに対する多様な選択肢と可能性があるというのが強みでもあると思う。

再掲bjリーグの貴重な挑戦

先月発行された日本体育協会の「指導者のためのスポーツジャーナル」に寄稿した「bjリーグの貴重な挑戦」ですが、先日、大学の同僚であり本学スポーツビジネス研究所所長の北原先生から「わかりやすい。まさに実態をうまく説明している」とお褒めの言葉をいただきました。日本鋼管では選手として、第一勧業銀行(女子)やNKKでは指導者として企業スポーツを体験してこられた先生にご理解の言葉をいただいたのは学者としてもうれしい限り。

ということでくだらないエントリーを下げてアゲましたw

ついでに某自治体のために書いた原稿も「アゲ」

みなさーん、僕はまじめな学者ですよ~

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