bjリーグの貴重な挑戦
日本体育協会の公認スポーツ指導者10万人に配布される「指導者のためのスポーツジャーナル」2010年秋号に掲載されたコラムです。体協の許可を得て転載。
bjリーグの貴重な挑戦
江戸川大学社会学部経営社会学科 准教授、本誌編集委員 澤井 和彦 氏
わが国で初めてのプロバスケットボールリーグとして2005年に6クラブで開幕したbjリーグは、2010-2011シーズンには16クラブに拡大する。しかし、昨シーズンオフに高松ファイブアローズの運営会社が倒産するなど、その経営は必ずしも順調とはいえないようだ。一方、もう一つのトップリーグであるJBL(日本バスケットボールリーグ)は、現在でも8クラブ中6クラブが企業スポーツクラブ(企業クラブ)である。企業スポーツとは、企業が福利厚生を目的に社員のスポーツ活動を支援する制度であり、企業スポーツ選手は企業の正規社員、企業クラブは企業のコストセンターである。bjリーグが設立される直前のJBLには、トヨタや東芝など7つの企業クラブに対し、親会社が撤退して企業クラブからプロクラブへ移行した新潟アルビレックス(現・新潟アルビレックスBB)が参加していた。
図JBLの企業クラブとbjリーグのプロクラブの収益構造
例えば、報道等によるとbjリーグとJBLの両リーグの1クラブあたりの運営費はともに2~4億円と言われるが、興行を行わない企業クラブは専属のスタッフを持たない場合も多く、運営費のほとんどが選手やコーチの人件費である。一方、営利企業であるbjリーグのプロクラブは、一般管理費などに加えて宣伝費や運営費などの割合が高く、サラリーキャップで選手の人件費総額を7,300万円(2009年)に制限している。つまり、JBLの企業クラブとbjリーグのプロクラブとの間には、選手の待遇にかなりの格差が生じている。報道や筆者の独自調査によれば、企業クラブの選手の報酬は嘱託契約選手で450~1,500万円、プロ契約選手で1,000万円から日本代表クラスで2,000万円にもなる。正規社員の選手は同年代の一般社員と同様の300~700万円だが、これに福利厚生と引退後のキャリア保証がつく。一方、bjリーグの日本人選手は400~500万円、練習生契約で200万円程度という例も聞く。もちろん、引退後のキャリアの保障はない。
JBLの企業選手の給与は親企業の賃金体系によるものであり、興行の成否とは無関係である。一方、bjリーグの選手の給与は興行の成否とクラブの収益に直結している。多くのスポーツ関係者が誤解しているが、プロスポーツ選手の給与は競技成績ではなく、お客さんの数に比例する。1試合あたりの観客動員数ではbjリーグがJBLを凌いでいるし、レラカムイ北海道はJBLでトップクラスの動員力を誇るが、プロクラブが企業クラブに匹敵する給与を選手に支払うためには、現在の倍以上の売り上げが必要だ。このまま統合しても、中長期的にはリーグの上位を企業クラブが占め、bjリーグのプロクラブのほとんどは下位に甘んじることになるだろう。逆に企業クラブをすべてプロクラブ化すれば、ほとんどの選手の給与は大幅に減少するし、選手の引退後のセカンドキャリアが大きな問題になる。両者の統合には制度的・経営的に高度なテクニックが必要になると思う。
澤井和彦「bjリーグの貴重な挑戦」指導者のためのスポーツジャーナル、日本体育協会、2010、pp46-47
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コメント
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はじめまして。
早稲田大学スポーツ科学部の学生です。
このブログ内にある図は、どこからの引用したものですか?
差し支えなければ、ご回答よろしくお願いします。
投稿: 松井 | 2010年11月29日 (月) 14時58分
質問ありがとう。
こちらの図は僕のオリジナルです。
投稿: 澤井 | 2010年11月29日 (月) 15時02分
回答して頂き、ありがとうございます。
ブログの最後に紹介されている本に図は、記載されているのでしょうか。
澤井和彦「bjリーグの貴重な挑戦」指導者のためのスポーツジャーナル、日本体育協会、2010、pp46-47
投稿: 松井 | 2010年11月30日 (火) 16時54分
掲載されてますよ。
発表か何かでお使いでしたらこぎらのブログの図を出典を明記した上でお使い下さい。
投稿: 澤井 | 2010年11月30日 (火) 17時44分
ありがとうございます。
今後の研究に役立てていきたいと思います。
投稿: 松井 | 2010年12月 1日 (水) 09時57分
ありがとうございます
学校で調べているんですけどセキュリティがかかってないのはこれだけでした
参考にさせて頂きます
投稿: ちょび | 2016年11月15日 (火) 11時07分